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津地方裁判所 平成5年(行ウ)1号 判決

原告

甲春一

右法定代理人親権者父

甲夏二

右訴訟代理人弁護士

伊藤誠基

梅山光法

被告

津市長

近藤康雄

右指定代理人

加藤裕

外八名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

1  被告が平成四年一〇月一五日付でした外国人登録申請却下処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  事案の概要

本件は、原告(一六歳未満の外国人)の父が原告に代わって行なった外国人登録申請に対し、被告がこれを代理資格のない者による不適法な申請であるとして受理しなかった処分について、外国人登録法、憲法二二条(国籍離脱の自由)、もしくは国際人権規約B規約二四条(児童の保護の措置、登録される権利)に反し違法であるとして、その取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実

1  外国人登録申請までの経緯

原告は、朝鮮籍を有し特別永住者である父甲夏二(以下「父夏二」という。)と日本国籍を有する母訴外乙川冬子(以下「母冬子」という。)の間の長男として昭和六二年一一月八日三重県津市において出生し、同月二四日母冬子の戸籍に入籍した。

父夏二と母冬子は、原告の出生に先立つ同年五月二〇日婚姻届を三重県津市長に提出していたが、平成四年三月二三日津家庭裁判所において調停離婚が成立し、その際、原告の親権者を父夏二、監護者を母冬子と定めた。その後、原告は現在に至るまで母冬子のもとで監護養育されている。

原告は、出生により日本国籍と朝鮮国籍の二つの国籍を有していたが、父夏二が、平成四年六月二日津地方法務局において、原告に代わって原告の国籍離脱の届出を行ったことにより、原告は日本国籍を失った。

原告は、日本国籍の離脱に伴い、母冬子の戸籍から除籍され、住民基本台帳から抹消された。

2  本件申請及び本件処分

父夏二は、平成四年六月二四日被告に対し、津市役所市民部戸籍住民課において、原告に代わって同人の外国人新規登録の申請をした(以下「本件申請」という)。

被告は、同年一〇月一五日付で父夏二に対し、同人が外国人登録法(以下「外登法」という。)一五条二項に規定する「外国人と同居する者」とは認められず、不適法な申請であることを理由に、本件申請を受理しない旨通知した(以下「本件処分」という)。

二  争点

1  訴えの利益の有無。

2  父夏二が外登法一五条二項に規定する原告の「同居者」にあたるか。

3  本件処分が外登法の趣旨、憲法二二条もしくは国際人権規約B規約二四条に反し、違法か。

三  争点についての当事者の主張の要旨

1  訴えの利益について

(被告)

(1) 外登法は、在留外国人の管理という公益の実現を目的としているのであって、在留外国人の個人的利益を保護することを目的とするものではない。在留外国人が外国人登録制度によって受ける便益は、単なる反射的利益にすぎず、権利又は法律上保護された利益に該当しないから、原告には本件処分の取消しを求める原告適格がない。

(2) 父夏二は、原告の同居者でないことが明らかであって、外登法に規定する代理申請義務者にあたらず、本件申請は手続的要件を欠く不適法なものであるから、仮に本件処分が取り消されたとしても、被告としては父夏二からの申請について不受理処分をするほかなく、原告の法律上の地位には何ら変動を生じない。したがって、本訴は訴えの利益を欠く不適法なものである。

(原告)

(1) 外国人登録は、様々な公的関係のみならず私的関係において、在留外国人の身分関係及び居住関係を証明するために必要とされており、外国人登録の有無は外国人の全生活関係に重大な影響を及ぼすものである。したがって、原告には、外国人登録申請を却下した本件処分の取消しを求める法律上の利益がある。

(2) 原告は、父夏二がなした本件申請が適法であるとして、これを不適法とした本件処分の取消しを求めているのであるから、当然に訴えの利益がある。

2  父夏二が外登法一五条二項で規定する「同居者」にあたるかについて

(原告)

外登法一五条二項に申請義務者として規定されている「外国人と同居する者」とは、世帯を同じくする者に限定されるのではなく、面接交渉権等の手段によって現実に当該外国人を事実上監護している者も含むと解すべきである。

なぜなら、(1)外登法の趣旨は本邦に在留する外国人の全てを掌握し管理することにあるのであるから「同居者」を限定的に解釈する必要はないこと、(2)実際にも、養護施設に入所中の児童と施設の職員は同居関係にあるとはいえないが、これら施設に入所中の児童に係る各種手続について、施設の職員が手続を代行することが認められており、また、保護者が監護を依頼して旅館やアパートに住まわせている場合には旅館の主人や家主も同居者にあたると拡大的に解釈運用されていること、(3)外国人登録申請義務者に登録申請の意思がなく、その申請が期待できない場合には、未成年外国人の未登録による不利益を避けるために、その法定代理人であり、かつ事実上監護を行なっている者も「同居者」にあたると解することが外登法の趣旨に適合するはずだからである。

本件においては、父夏二は原告の親権者であり、面接交渉等により原告を事実上監護しており、また、申請義務者である母冬子らに外国人登録の意思がなく、その申請が期待できないのであるから、父夏二は原告の同居者にあたると解すべきである。

(被告)

「同居」の意味は、「同じ家に共に住むこと」を指しているのであり、たとえ親権者ではあっても、日常生活で生計や居住を共にしていない場合や、原告が主張するような月に数回程度の面接交渉を行なっている場合までは「同居」に含まれない。

なぜなら、(1)外登法は、外国人の身分関係のみならず居住関係についても正確に登録するため、外国人本人に代わって申請義務を負う者は、本人の身分関係をよく熟知し、日常生活に接触していることが必要であること、(2)「同居者」には、申請義務を課し、それを果たさないときは罰則による制裁をもって望むものであるため、申請義務者の範囲を個別事案のいかんによって適宜拡大解釈することはできないからである。

ちなみに、保護者が旅館の主人等に一六才未満の年少者について特に監護を依頼している場合について代理申請が認められる例については、居住のみならず生計面も含めて監護依頼がなされているのであれば、同居者となり得るとの考えに基づくものと思われ、しかも、旅館の主人を外登法一五条四号のその他の同居者としなければ法律上代理申請義務者が存在しなくなるのに対して、本件においては、父夏二は原告と居住が別であり、生計を異にするのであり、母冬子が原告と同居し監護にあたっており、法律上の代理申請義務者が存在している場合であって、事例が異なるのである。また、養護施設に入所中の児童の場合は、本来外登法上の代理申請義務者がいないため、実際上の当不当の観点から施設の職員による申請代行を是認しているのに対して、本件では、法律上の申請義務者が別に存在している場合であるから、事例が異なっている。

3  本件処分が外登法の趣旨、憲法二二条もしくは国際人権規約B規約二四条に反し、違法か。

(原告)

本件のように外国人登録の申請義務者が登録申請義務を履行しない場合において、同居者でない親権者である父夏二について代理申請資格を認めない本件処分は、外登法の趣旨、憲法二二条二項もしくは国際人権規約B規約二四条一項、二項に違反する。その理由は次のとおりである。

(1) 外登法一五条二項が代理申請義務者を同居者に限定したのは、登録事項の正確性を担保するためのみでなく、罰則を伴うため同居していない親族まで申請義務を負担させることは好ましくないとされただけのことであり、申請義務者と申請資格者を分けて考えることは可能である。現に、戸籍法改正前の死亡届や失踪宣告の届出について、届出義務者とされていない者について解釈によって届出資格を認めることがなされており、外登法においても同様に解釈することは可能なはずである。そこで、仮に父夏二が右条項の「同居者」にあたらないとしても、前記2の原告主張と同様の趣旨から、申請義務者が申請義務を履行しない場合においては、同居者でない親権者に代理申請資格を認めることが外登法の趣旨に合致する。

(2) 国際人権規約B規約二四条一項は「すべての児童は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、国民的若しくは社会的出身、財産又は出生によるいかなる差別もなしに、未成年者としての地位に必要とされる保護の措置であって家族、社会及び国による措置についての権利を有する。」とし、同条二項は「すべての児童は、出生の後直ちに登録され、かつ、氏名を有する。」と規定している。

仮に外国人登録の申請資格者を同居者に限定すれば、本件のように申請義務者が申請義務を履行しない場合には、いたずらに児童の登録を阻み、現在の原告のようにいかなる種類の登録もされない状態を生じる。このような状態を生じさせる本件処分は、右規約二四条二項(児童が登録される権利)に違反するだけでなく、国及び自治体による保護措置をも受けられなくなる事態をもたらすから同条一項(児童の保護の措置)に違反し、さらに、外国人登録されないと日本国籍からの離脱が事実上困難になることは明らかであるから、憲法二二条の定める「国籍離脱の自由」の精神にも反するものである。

(被告)

外国人登録の登録申請義務者ではない父夏二には、登録申請資格は認められない。その理由は次のとおりである。

(1) 外登法上、申請義務者とは別個に申請権者が存在すると解することはできない。すなわち、

① 外登法には、申請権を導く根拠になる規定は全く存せず、このことは、戸籍法には同法八七条二項、住民基本台帳法には同法二六条一項といった申請義務者とは別個に申請権者を認める明文の規定が存することと対照的である。

② 外登法は、その目的を第一条において在留外国人の公正な管理のみに置いているのに対し、住民基本台帳法一条は「住民の居住関係の公証、選挙人名簿の登録その他…もって住民の利便を増進するとともに」と規定して住民の個別的利便をも保護の対象としていることと対照的である。

③ 住民基本台帳法一五条一項は、選挙人名簿に登録されるためには住民基本台帳に記載されていなければならない旨規定している。そのため、住民基本台帳への記載を受けなければ選挙権を行使できないことになるから、住民基本台帳への記載は参政権という具体的権利の行使のため必須の条件として個々の住民に重大な利害をもたらす。一方、外国人は選挙権を有しないからそのような問題は生じず、外登法にはこれに対応する規定は存しない。

④ 住民基本台帳法及び戸籍法には、不服申立てに関する規定が置かれている(住民基本台帳法三一条の二[平成五年改正後の同条の三]、三二条、戸籍法一一八条)が、外登法にはそのような規定は存しない。

(2) さらに、仮に憲法二二条及び国際人権規約B規約二四条の精神から外国人登録の申請権を認めるのが妥当であるとしても、それらの規定により直ちに申請権が具体的権利として個々の申請者に保障されているとはいえない。外国人登録申請権なるものが仮にありえたとしても、それは国家が外国人登録制度を創設したことによって生じた後国家的権利であり、抽象的権利にすぎない。法律によってその範囲、行使方法等が具体化されない限り申請者に具体的権利として保障されることにはならない。

(3) ちなみに、原告の挙げる死亡届や失踪宣告に関する先例は、いずれも現になされた申請に対し、それを受理しても違法無効にならないとしたものであって、受理しなかった場合に違法であることまでも示すものではないから、申請権を認めた例とはいえない。

第三  争点についての判断

一  訴えの利益について

外登法は、「本邦に在留する外国人の登録を実施することによって外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もって在留外国人の公正な管理に資する」ことを目的として規定し(外登法一条)、在留外国人の身分関係及び居住関係の基本的事項等を登録させるとともに、これら登録事項を記載した外国人登録証明書を交付してこれを外国人に携帯させること等を規定している。これらの外国人登録の存在は、外国人の出入国・在留管理をはじめ労働、教育、福祉その他の行政各般の分野において国及び地方公共団体が行う在留外国人に係る関係法令に基づく管理に役立たせるため、在留外国人の身分関係や居住関係に関する正確な資料・情報を提供することを目的とするとともに、さらに、私的関係において身元を証明する方法として様々に利用されている。このように、外国人登録制度が各種公法関係及び私法関係における身分、居住関係の公証制度としての機能を果たしていることから、これら外国人登録制度によって自己の身分関係及び居住関係を証明しうることによって享受する利益は少なくとも法律上保護に値する利益であり、登録申請を拒否した本件処分の取消しを求める原告には訴えの利益が認められる。

なお、被告は本件申請が代理申請義務者によってなされておらず不適法であるから本件処分の取消しを求める訴えの利益を欠く旨主張するが、原告は本訴において、父夏二が代理申請義務者にあたる、若しくは申請資格者にあたるから本件申請が適法であると主張して本件処分の取消しを求めているのである。したがって、仮に本訴請求が認容されれば、父夏二による代理申請が適法であったことになり、原告はこれにより外国人登録を受けることが可能となるのであるから、本件訴えの利益が存することは明らかである。

二  父夏二が「同居者」(申請義務者)にあたるか。

1  当事者間に争いのない事実及び証拠(甲二ないし四、八、一〇ないし一三、乙二、五、六)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 朝鮮籍を有し特別永住者である父夏二と日本国籍を有する母冬子は、昭和六二年五月結婚式を挙げ、父夏二の母と同居して新婚生活を始めた。母冬子は、同年一一月八日、三重県津市において原告を出産したが、退院しても父夏二の家に戻ることを拒み、一時津市内のアパートで同人と同居生活を行なったが、昭和六三年九月原告を連れて自己の実家に帰ってからは、再び父夏二と同居することはなかった。

(2) そして、父夏二と母冬子は、平成四年三月二三日津家庭裁判所において調停離婚が成立し、その際、原告の親権者を父夏二、監護者を母冬子とし、父夏二は原告に一ヵ月に二回面接交渉をすること、父夏二は毎月四万円づつを養育費として送金すること、面接交渉の履行状況を見て調停成立後一年後に原告の親権及び監護権の帰属について協議すること等を合意した。

(3) その後、原告は現在に至るまで母冬子のもとで監護養育され、父夏二は原告と面接交渉を繰り返している。

(4) 父夏二は、平成四年六月二四日被告に対し、津市役所市民部戸籍住民課において、原告に代わって同人の外国人新規登録の申請をした。

しかし、被告は同年一〇月一五日付で夏二に対し、同人が外登法一五条二項に規定する「外国人と同居する者」とは認められず、不適法な申請であることを理由に、本件申請を受理しない旨通知した。

(5) 被告は平成四年七月ころから母冬子に対して、原告の外国人登録申請をするよう促したが、母冬子は、前記(2)のとおり調停成立の一年後に原告の親権及び監護権の変更について父夏二と協議することになっていたことから、平成四年八月八日ころこれを拒否したため、被告は同年九月九日、同女について、右申請義務不履行による過料事件として津簡易裁判所に通知を行なった。

2  ところで、外登法は、在留外国人に対し新規登録義務を課し(同法三条)、登録事項として同法四条において、その氏名、出生の年月日、男女の別、国籍、戸籍の属する国における住所又は居所、出生地、職業、旅券番号、旅券発行の年月日、上陸許可の年月日、在留資格、在留期間、居住地、世帯主の氏名、世帯主との続柄、勤務所又は事務所の名称及び住所等を居住する市町村に登録することとしている。そして、外登法一五条一項は、外国人登録申請は自ら当該市町村の事務所に出頭して行なわなければならない旨本人出頭の原則を定め、同条二項は、外国人が一六歳に満たない場合又は疾病その他身体の故障により自ら申請若しくは登録証明書の受領若しくは提出することができない場合には、外国人登録申請は、当該外国人と「同居」する各号にあたる者が当該外国人に代わってしなければならないと規定している。右外登法一五条一項、二項の規定は、右各登録事項が正確に登録されることを期待するため、当該外国人の居住関係及び身分関係について最もよく知っていると思われる者を登録義務者と定めたものであり、また、同法は登録義務者に対してはその申請義務の不履行について罰則による制裁をもって臨み(一八条一項、一九条)、正確な登録の実現を担保している。したがって、外登法一五条二項の「同居」する者とは、同一家屋で起居を共にするなど実質的に当該外国人と共同生活をしている者をいうと解すべきである。

そうすると、前記認定事実によれば、原告と実質的に共同生活を営み、原告と同居しているのは母冬子であって、父夏二は、原告と月に二回程度面接交渉を行なっているにすぎない者であるから、原告と「同居」していると認めることは困難である。父夏二が外登法一五条二項の同居者に該当する旨の原告の主張は理由がない。

なお、原告は「同居者」の範囲をゆるやかに解釈運用すべきである旨主張するが、外登法は代理申請義務者に対し、申請義務の不履行について過料の制裁を課しているものであるから、「同居者」の範囲をゆるやかに解釈し、その範囲を拡大して運用することは許されない。

三  原告の外国人登録申請を認めなかった本件処分は外登法の趣旨、憲法二二条もしくは国際人権規約B規約二四条に違反し、違法か。

1  外国人登録に関し、登録義務者以外の者に登録申請資格を認め得るかについて、まず検討する。

(1) 外登法は、その第一条において、外国人登録の目的を在留外国人の公正な管理に資することにあるとし、在留外国人の個人的法益の保護を図るとは規定していない。そして、同法三条、一五条一項等は、いずれも「申請しなければならない」等と義務のみを規定し、申請権もしくは申請資格者についての文言はみられない。また同法は、登録に関する不服申立制度を規定しておらず、職権による登録の制度も設けてはいない。

これに対して、国民の居住関係等を管理する住民基本台帳法は、同法二六条一項に、「世帯主はその世帯に属する他の者に代わってこの法律の規定による届出をすることができる」と規定している以外は、いずれも届出を義務として規定しているが、その一条において住民の利便を増進することを同法の目的と定め、また、市町村長がした処分について不服申立の制度を定めている(本件処分当時の同法三一条の二)。また、戸籍法も、届出は義務として規定されているが、同法三七条三項は戸籍に関する届出について、「届出人が疾病その他の事故によって出頭できないときは代理人によって届出をすることができる」旨、同法八七条二項は「死亡の届出は同居の親族以外の親族もこれをすることができる」旨を規定しており、また、同法一一八条は市町村長の処分について不服申立の制度を定めている。

これらによれば、外登法は、戸籍制度や住民基本台帳制度と同じく人の身分関係、住居関係に関する登録制度でありながら、規定の文言上も不服申立制度の面からもその法律の目的の面からも、外国人登録を求める者について登録が権利であることを窺わせる条文は存しない。

(2) また、外登法は、前記のとおり外国人登録に関し、同法一五条一項において本人出頭の原則を定め、同条二項において外国人が一六歳に満たない場合等自ら申請等をすることができない場合には代理申請義務者を定めており、同条項は代理申請義務者として、当該外国人と同居する次の各号に該当するものとして、一号に「配偶者」、二号に「子」、三号に「父又は母」、四号に「前各号に掲げる者以外の親族」、五号に「その他の同居者」を規定している。そして、同法は、外国人登録義務を履行しない場合に、本人に対しては一年以下の懲役もしくは禁錮又は二〇万円以下の罰金の刑罰を科し(同法一八条)、代理申請義務者に対しては五万円以下の過料の制裁を課している(同法一九条)。

右によれば、外登法は外国人登録事項の正確さを期するため、当該外国人の居住関係及び身分関係を最もよく知っていると思われる者を登録申請義務者として規定していることが窺われ、また、登録の迅速性、確実性を担保するため、申請義務者に対して懲役刑を含む重い罰則をもって臨んでいるのであって、同法が国による在留外国人の公正な管理という公益を図ることを目的とする法律であることが明らかである。

(3)  以上によれば、外登法は、在留外国人の公正な管理に資することを目的とした法律であり、できるだけ正確な内容の外国人登録を迅速に漏れなく実施する方法として、登録申請義務者による申請義務のみを認め、申請義務者以外の者に申請資格を認めない制度を採用したものであると解される。

2  原告は、登録資格者の範囲を右のように解すると原告がいかなる種類の登録もなされない児童となってしまい、結局、本件処分は憲法二二条二項(国籍離脱の自由)の精神もしくは国際人権規約B規約二四条一項(児童の保護の措置)、二項(児童の登録される権利)に反する旨主張する。

しかしながら、一六歳に満たない未成年外国人の登録の代理申請資格をどの範囲の者に認めるかは、手続的な事柄であり、立法政策の問題である。そして、外登法は、前記のとおり、一六歳未満の外国人について同居者により漏れなく登録できるように代理登録の申請義務者を規定している(同法一五条二項)のであり、同法が憲法二二条二項もしくは国際人権規約B規約二四条一項、二項の精神に反するとはいえない。

本件処分は、原告についてどのような者が申請しても登録されないことを理由に不受理処分がなされているのではなく、単に父夏二が代理申請資格を欠くことを理由になされたものである。そして、前記認定のとおり、本件においては原告と同居している母冬子が本来の代理申請義務者として存在しているのであって、同居の要件を欠き、申請資格を有しない父夏二の申請を受理しなかった被告の本件処分は、外登法の規定に従ってなされたものであって、適法なものであり、右各法条に反する違法な処分ということはできない。

もっとも、代理申請義務者である母冬子が原告の外国人登録を拒み、その結果原告について外国人登録がなされていない事実が存在する。しかし、このような事態は外国人本人が外国人登録を拒む場合にも生ずることであり、申請義務者でない者による登録申請を受理しなければならないものではない。どの範囲の者に申請資格を認めるかは、全体として正確な登録を実現するための立法政策の問題と言うべきである。

なお、代理申請義務者が登録しない場合の本人(児童)の保護については行政上別途配慮されることが望ましいことは勿論であるが、原告が外国人登録を受けていないことによって、原告本人が具体的に不利益を被っているとの事実は証拠上認められない。

第四  以上の次第で、本件処分は適法であって、本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官窪田季夫 裁判官橋本勝利 裁判官舟橋恭子)

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